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男は頭を下げながら、言葉を紡ぐ。
「こいつなら、軍でも生き残っていけると思います。命の危険はあっても、こんなところで閉じ込めておくには、勿体ない。……こいつを、ゾムを、宜しくお願いします」
目の前のグルッペン・フューラーという少年は、まるでこうなることが当然とでも思っていたかのように頷く。
「ああ、力量次第だが、相応の待遇を約束しよう」
ゾムは、「嘘だよな、なんでそんなこと言うん、なあ、」と言いながら、グルッペン･フューラーの率いてきた軍人に引き連れられていた。
「あの、出来れば、こいつも、連れていってくれませんか」
すそう男に手を引かれたのは、俺だった。
「…そや、Aが行かへんなら、俺も行かん！Aも、」
「残念だが、俺が欲しいと思う戦力はこいつだけだ。…そこの奴は、特にめぼしい動きをする訳でもなかったように見えたが？そんな奴が軍に居ても、寿命を徒に縮めるだけだろう」
告げられたのは、戦力外通告のようなもの。俺を一瞥して、ゾムだけを連れて軍人達は去っていった。
「…悪いな」
去っていった後の、俺と男しか居なくなった場所で、男はそう言った。
何に対しての悪い、なのか。ゾムを連れて行かせたこと？俺を連れて行かせられなかったこと？
「……俺には、持病がある。もう永くはもたない。そんな俺の傍に居させて、路頭に迷わせるよりは、軍でも何でも安定したところに行かせる方が、良いと思ったんだ」
初めて告げられた、男についての話だった。何年も一緒に暮らしているのに、この男は名前も教えてくれない。そんな男が話した、初めての自身についての話だった。
「お前も一緒に、と思ったんだが、うまくいかねえもんだな」
何かを諦めるように、自虐のように笑う男。そしてもう一度、悪いな、と謝った。
「……俺は、ここに居るよ。あんたが死ぬまで、ここに居る」
「…面倒見させて、悪いな」
友人を失うのはこれで2度目だ。この虚無感は、何回経験しても慣れるものではない。
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作者名：金欠 | 作成日時：2024年3月31日 21時
