探す【男主】 (ページ29)

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　無事シャオロンの護衛の元帰路についたAは、見覚えのある看板が目に入ったところで声を掛ける。

「ありがとうございました。送っていただいて」
「ええって、この辺物騒やしな」

　それじゃあ、と店の中に入ろうとしたところだった。シャオロンが「あのさ」と言い出したことで、進む足を止める。

「あいつらが居るから軍に入らなあかんとか、気負わんでええからな。グルッペンも、ほんまに考えて軍に入らんて決めたんやったらそれで納得するし。Aくんのしたいようにしたらええで」

　まあ、入ってくれたら俺も嬉しいけどな。シャオロンはそう言って笑った。

「軍に入らんでも、どこに居るか分かってんねんから会いにも来れるし。Aくんが会いに来てもええし」
「……はい」
「な！ゆっくり考えて、決めたらええよ」

　シャオロンは「またな！」と言って走り去っていく。姿が見えなくなるのはあっという間で、Aはしばらく見送った後、店の中へと入った。

　自室のベッドに横たわると、ひとつ溜息を吐く。
　無意識のうち張り詰めていた糸を、ゆっくり解きほぐすように、今日のことを回想する。
　トントンも、ゾムも、自分が心配する必要などないほど元気で。話すことはできなくとも、生きているところを確認できればそれでいいと思っていた。だが、二人はAのことを忘れていなかった。長い間探させていた、というところは申し訳なく思ったが。

　軍への勧誘は、どう返事をしていいものか分からなかった。トントンのような志があるわけでも、ゾムのような並外れた能力を持っているわけでもない。今日の観光客と呼ばれたあの男のことも、例えばあの男が自分のことを格下だと思って油断していなければ、死んでいたのは自分だっただろう。
　自分の命が惜しいと思ったことはない。惜しむべくはトントンとゾムの生死の如何だけであって、それが分かった今、いつ死んだって悔いはない。
　そんな人間が軍に居て、何かの役に立つのだろうか。居候させてもらっているこの場所にだって、何の恩も返せていないのに。