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夢を見た。
まだ幼い頃のトントンが、心配そうにこちらを見ている。そんな夢だった。
夢の中だからか痛覚はない。手足の動かし辛さも感じない。空腹も、──あの頃の恐怖も、寂しさも無かった。
「────」
トントン、と名前を呼ぼうとするが、口から漏れるのは音になり切らない吐息だけ。
「────」
トントン。声は出なくとも、呼んでいることが伝わるようにと何度も息を吐く。
「────」
トントン。彼の元に向かおうと思うのに、足が、手が、いうことを聞かない。
「────」
トントン。あの時、声を掛けてくれて、すくってくれて、ありがとう。もし、もしもトントンがあの時Aのことを見捨てていたら。こうして生きていることは、無かっただろう。
「────」
トントン。元気そうで良かった。何の話をすることもなく去ってしまったことを、ずっと悔いていた。
「────」
トントン。また、会えてよかった。
「──トン、」
ようやく言葉に音が乗った。
「…………っ」
トントン、と呼び掛けた声は、途中でその勢いを無くす。こちらをじっと見ていた彼が、ふと目を逸らしてその場から立ち去ってしまったからだ。
Aは途端に、言い様のない恐怖に全身を包まれる。ゴーン、と音を立てるのは街の時計塔で、それは今の時刻が17時になったことを示している。
ガチャ、とドアの開く音がした。
「"反省"できたか？」
Aはびくりと身体を揺らす。夢だと分かっているのに、その声を──父親の声を思い出すだけで震えが止まらない。
久しく感じなかった恐怖を。トントンとゾムのお陰で記憶の隅に追いやっていたものを、無理矢理引き摺り出される。
あの日、トントンが声を掛けてくれなければ。Aは近いうち、この男に殺されていただろう。
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作者名：金欠 | 作成日時：2024年3月31日 21時
