探す【男主】 (ページ8)

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　翌朝目覚めると、Aの姿は隣に無かった。

「A？」

　呼んでみても、返事が返ってくるはずはなく。
　Aの代わりに置かれていたのは、「トントンへ」と書かれた1枚の紙。

　トントンへ
　やさしくしてくれて、ありがとう。
　もういきます。
　A

　自分が教えた言葉で、字で、その紙には別れが認められていた。
　なんで、何も言わずに。いつ出ていった？いつから出ていくことを考えていた？分からない、A、帰ってきて、教えてくれや。

　いつもの時間になっても食卓へ来ない自分を心配して、母さんが部屋へ呼びに来た。Aの姿が見えないことに違和感を感じたようで、トイレにでも行ったの？と聞かれたが、答える前にAが置いていった手紙を見せた。
　手紙を見た母さんは泣き崩れ、父さんは何事だと様子を伺いに来て、事のあらましを説明すれば、「まだ近くにいるかもしれない」と。

　総出で家を飛び出し、色んな人の家に「Aは来てないか」と尋ね回る。誰も口々に「知らない」「見ていない」と答えた。
　近くの森の中も、懸命に探したけど、Aの姿は見当たらない。
溢れてくる涙も、ガラガラになった声も、Aまで届きはしなかった。

「A、A.......っ！」

　その次の日も、そのまた次の日も、母さんや父さんと探した。それでもどこにも見つからない。
　勉強をする暇があるなら少しでも探す。少しでも名前を呼ぶ。いつか帰ってきたときのために、ベッドは半分しか使っていない。

　なあ、A。傍に居ってくれよ。

　何度も何度も読み潰した手紙が、くしゃりと手の中で音を立てた。