・ ページ22
だって、人間達は祈りに来なくなってしまった。
Aもいつか必ずここを去ってしまう。
最後の希望だと縋って、絶望することになったら？
その時はもう、絶対に耐えられない。
自我を保っていられる気がしない。
「なぁゾムよ。アイツは強いで。それに優しい。お前が心配することはなんも起きへん」
確信を持つように言えるのは、きっとコネシマが完全覚醒したからだろう。
力強いオーラは見て分かる。
「近付くんが怖いなら、とりあえず運ばれてくる飯だけでも食ってやれ。喜ぶ思うぞ」
そう言って、コネシマは部屋を出て行った。
残された盆に乗る食事。
味噌汁の蓋を開ければふわりと湯気が出る。
箸を持って、コネシマが美味いと言っていた卵焼きを口に入れる。
「美味いな…確かに…….美味いわ…」
胸が暖かくなるような、そんな気持ちになる。
それでもやっぱり怖くて、Aと会うことはまだ出来そうにない。
会えば絶対に、信頼してしまうと分かっているから。
でもこの食事ぐらいは、コネシマの言う通り食べることにしよう。
食事を食べ終え、盆を外に出す。
しばらくするといつものように盆を下げに来たAの足音がした。
それは少し離れたところで止まり、慌てているかのように部屋の前まで駆けてきたことが分かった。
「ゾ、ゾムさん食べられたんですね…！よかった…！毎日持ってきますから！たくさん食べてくださいね！」
嬉しそうに跳ねる声は襖越しからも分かる。
思わず笑ってしまった。
バタバタと走り去り、おそらく出会ったであろうコネシマに「ゾムさんが食べてくれた」と大きな声で報告しているのが聞こえた。
運ばれる食事はどれも美味しかった。
嫌いな食べ物が乗っていることもあったけど、全て残さず食べることにした。
全部食べ切った皿を見るたびに、嬉しそうなAの声が聞こえてくる。
発作が起きても、その笑顔を思い出すだけで少しだけ痛みが和らぐ気さえした。
そして今日も、Aの作った食事が運ばれてくる。
食べている途中、突然いつもと比にならない痛みのある発作が襲った。
箸が床に落ち、茶碗も落としてしまう。
そして運悪く、過敏になっている感覚が人間の声を捉えた。
こんな時間に神社に入ってくるであろう、男女の声だった。
そこから先、俺には朧げな記憶しかない。
第五章 前日譚
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 543人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
味鈴(プロフ) - あいすみるくてぃーさん» ありがとうございます！好きに刺さったなら幸いです！気長にやっていきますのでよろしくお願い致します！ (6月5日 7時) (
レス) id: 0263eefc6e (このIDを非表示/違反報告)
あいすみるくてぃー - 初コメ失礼します！めちゃめちゃ好きです！続き楽しみです♪ (6月4日 0時) (レス) @page10 id: 371807440b (このIDを非表示/違反報告)
味鈴(プロフ) - 檸檬さん» わー！コメありがとうございます！気長にやっていきます！嬉しいです！ (6月3日 21時) (レス) id: 0263eefc6e (このIDを非表示/違反報告)
檸檬 - 初コメ失礼します！応援してます！投稿も頑張ってください！ (6月3日 20時) (レス) @page4 id: b3274f6834 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：味鈴
| 作成日時：2023年6月2日 21時
