【npl】春一番

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「まあいいよ」



　藤崎くんは先程まで声をあげてゲラゲラと笑っていたのに、今やそれが嘘のように、すんっと真顔になる。一方秋山さんは変わらずにこにことしていた。

　真顔の彼はいつも通りの淡々とした口調で「あのさ」と口を開いた。



「しゅーさん、なんでいんの？」

「なんでだと思いますか？」



　その破顔を全くと言ってもいい程崩さず、藤崎くんへ問いかけた。当の本人はと言うと、質問を質問で返されたことに呆れたのか、より一層の冷ややかな視線を送っていた。
　おー怖い。と発する言葉はどう聞いても棒読みで、反省していない声色である。



「保健の教科書忘れちゃって。どうせ蘭たんのことだから、早々に置き勉してるだろうなって思ったから」



　微笑む顔と穏やかな声のトーンで、一瞬錯覚してしまいそうになるが、言っていることは割と失礼な感じがする。それもきっと、仲が良いからなんだろう。

　秋山さんは「ね。持ってるでしょう？」と自信ありげに言う。

　様子を見るに、図星なのか。藤崎くんは嫌そうな顔をしながらも、机の中を手探りする。秋山さんの言う通り、手元には傷一つない真新しい教科書があって、彼は不服そうにそれを差し出した。


　落書きするなだの何だのと。やいのやいのと言い合っている。


　仲良さげな二人の世界に私が入る隙も無い訳で。私はもはや空気である。

　完全に手持ち無沙汰になってしまい、仕方がないから授業の予習でもしようと、机の横に掛けてあるリュックの中から教科書を取るべく身体を屈ませた。



「俺じゃなくてはっちに借りれば良かったんじゃないの」

　

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