◇ ページ35
間近に感じるAの暖かい眼差しは、矢張りかつての彼女と何ら変わらなかった。
懐旧の情と喉の奥を引っ掻かれたようなむず痒さを覚え、紗緒は浮かび上がる雑念から意識を逸らさんと宙に視線を彷徨わすが、十秒も経たぬ間に今度は真っ直ぐにAの顔を見遣った。紗緒の
彼女らと向き合うことを決めた紗緒は、今ようやくその重い足を踏み出したのだ。
「Aってさ、なんて言うか…物事を深く考え過ぎるトコあるよな」
普段通りを演じたかったのか、暗い雰囲気を無理に灯したような歪な声色で放たれた言葉からは、幾度もの推敲の跡が見て取れた。
夕焼けのように煌めく瞳からは"心配"と言うべき沈んだ光が宿っていて。Aは其れに気付きながらも態と触れようとはせず、曖昧な返事と共に続きを促す。
「そこもAの良え所ではあるんやけどさ。ただ、何でもそうやけど過剰になるのはあんま良くないやんか」
『確かに薬でも教育でも
「せやろ？まあ 絶対アカン、とまでは言わんけどもう少しこう……ポジティブ？楽観的？にならな、お前いつか壊れんで」
届け。
祈りに近い感情を胸に、紗緒はAの言葉を待つ。
何度目かはもう分からない。グルッペンを除く仲間たちが 幾度となく同じ内容を遠回しに伝えてきたが結果は全戦全敗、この思いが通じたことは無かった。いや、通じた上で止められていなかったのかもしれない。何せ前世は軍事国家の軍人、しかも幹部なんて重要職に就いていたので。
その中でも"拷問官"という他より一層情報の正誤に厳しい役目を任されていた彼女に熟慮しすぎるな、なんて、皆も無理な頼みだと分かっていた。分かっていても尚、それでも、結局彼女が大事だったのだ。
『……考え過ぎ、かぁ』
凩のような声だった。パサパサで且つ無味のスポンジを口の中に放り込まれたような表情をしていた。
きっと彼女も口に出すつもりはなかったのだろう。一瞬ピタリと歩を止めて唇を撫でていたのを、紗緒は目敏く捉えていた。
「楽するのも大事やで」
大先生みたいに、とは言えなかった。
ゆらゆらとAの瞳の奥で何かが揺らめく。
『…………うん、分かった』
「ホンマに！？」
真逆の明るい返事に紗緒は思わず大声を上げる。
嗚呼、漸く届きそうだ。
紗緒は今日やっと、純粋な満面の笑みを向けることが出来た。
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怜巫(プロフ) - まるさん» コメントありがとうございます。イマジナリーッペンは自分でもお気に入りの造語です(笑)。ご期待に添えられるようなお話かは分かりませんが、気長にお待ち頂ければ幸いです… (11月20日 15時) (
レス) id: 42dc5a7528 (このIDを非表示/違反報告)
まる(プロフ) - 今では珍しいパンゾンビ、P.6で出てきて懐かしすぎて久々に見に行ってしまいましたwイマジナリーッペンの語呂の良さ、微笑んでしまうようなやり取りetc…明日が一応更新日ということで、気長に楽しみに待っています！！ (11月18日 20時) (レス) @page33 id: dba6e6f19e (このIDを非表示/違反報告)
怜巫(プロフ) - ワカメさん» お褒めいただきありがとうございます！遅筆ですが頑張って続きを作成中ですのでこれからも本作品を何卒宜しくお願いします！ (10月3日 20時) (レス) id: 138669c149 (このIDを非表示/違反報告)
ワカメ - ものすごく面白いです！続き楽しみにしてます！ (10月3日 18時) (レス) @page22 id: 103dc78d5a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：怜巫 | 作成日時：2023年8月17日 5時
